2005年 第1回定例会 田中優子一般質問  3月2日

 

                     ※この原稿は質問の元としているもので、実際話したもの(議事録になるもの)とは多少異なる部分があります。

                   ※答弁等、詳細は会議録検索システムへ  

 

 

  「すべての政策は心の健康から」

   〜“心の健康”を視点として、不登校・虐待・自殺等の社会問題を考える〜

 


「心の健康の視点から、不登校・虐待・自殺などの社会問題について考える」観点から、質問致します。

(1)
毎日のように報道される子どもや高齢者への虐待、凶悪犯罪、その影にある不登校や引きこもりという社会問題、そして年間3万人以上に上る自殺者の数。これらの背景には、「報われない」という絶望感とストレスが、深層心理にある、と思われます。

警視庁の発表によると、1988年〜97年までの10年間は、年間の平均自殺者数は2万2410人です。しかし1998年になると、前年に比べて、一挙に1万人以上も増えて、それ以来、3万人台が続いています。

その多くが、働き盛りの男性です。

会派の代表質問では、所得中間層、中堅層への厚みを増す政策が必要である、と訴えたところですが、この層の人たちが元気になることこそが、活力のある街づくりにつながる、と考えます。にもかかわらず、その層の人たちが自ら命を絶ってしまう。それに対して、行政として何ら予防策を講じていない、という現状は大問題だと私は思います。

つい先日も、韓国の有名女優が24歳の若さで自らこの世を去りました。
その中で、
「彼女は自殺ではない。うつ病と戦った上での死なのだ」というコメントがありました。

自殺ではなくてうつ病による病死である、ということだと思います。

私は、この質問の準備に当たり、心の健康や自殺予防に関連する数々の文献を読みました。その中でも、全く同じことが医師や専門家から指摘されています。自殺のほとんどがうつ病による死、ということなのです。

うつ病は、他の多くの病気と同じように、治るもの、です。

年間3万人以上という数が一体どんなものか、考えてみて下さい。

私どもの会派では、この間ずっと、地震は必ず来る、と認識した上での防災・減災対策を訴えてまいりました。

つい先日も、東京で直下型の地震が起きたら、経済被害が何と112兆円にのぼり、死者最大1万3000人、と想定されていることが発表されたばかりです。とんでもない被害である、という感覚を誰もが持ったことと思います。

自殺者の毎年3万人以上という数は、首都圏直下型地震で想定される死者最大数の約3倍です。これは、ある意味、地震よりも深刻な社会問題ではないでしょうか。

しかも、地震プレートとは関係がない。つまり、地域限定ではなく、いつ、誰に起きてもおかしくない、年齢、性別を問わず、いつ私たちを襲うかもしれない病魔なのです。

だからこそ、心の健康を守る、あるいは取り戻すことが、今、早急に必要な施策と言えるのではないでしょうか。

「すべての政策は心の健康から」と題したのは、こういう視点からなのです。
行政としては、この深刻な現実をどのように受けとめ、予防策の必要性についてはどのように考えているのか?見解を伺います。

 

(2)
また、自殺の問題は、死にゆく3万人の問題だけにとどまりません。その背後には、10倍の数の未遂者がいる、と言われています。そして、自殺行動一件あたり、控えめに見積もっても、家族や知人が最低5人は深刻な二次的被害を受ける、という現実があります。

遺された家族や知人は、自殺という事実を人に話すことができず、家族の自殺を止められなかった、とある時は自分を責め、一人で抱え込み、苦しんでいます。地域の相談機関や医療機関において、精神科医や臨床心理士等が中心となって、自殺死亡者の家族等に対し、心のケアを行なうことが必要です。

先日、新聞でも紹介されていましたが、ライフリンクというNPO法人が、自殺者の遺族にとって、大変大きな力となっているようです。それら民間の相談窓口につなぐことが出来るよう、区からも情報提供をしっかり行なっていただきたいと思います。

また、これは予防の段階ですが、家族が相談をする場所の一つとして「かかりつけ医」の役割も重要です。これは専門家に聞いた話ですが、うつ病の中には、頭痛や腹痛といった身体的な症状がでるものもあり、うつ病と気づかずに、内科的な治療で終わってしまうことがある、というのです。あの時、うつ病に気づいていれば・・・ということがあるのです。

ですから、精神科以外の医療機関においても、うつ病に対する知識を十分に持っていただきたい。これはぜひとも、医師会と連携してやっていただきたいことですが、区の考えをお聞かせ下さい。

 

(3)
この自殺予防のことを、震災に例えれば、自殺で家族を失ってしまうことは、家が全壊してしまうほどの大きな被害、人的損害、社会的損失です。

耐震補強をすれば被害を防ぐことができる。同様に、うつ病を治せば、自殺は予防できる、のです。毎年、首都圏直下型地震が3回も起きているような被害、それは、対策を講じれば、大部分、防ぐことができるのです。

今、一般の人々を対象とした講演会や勉強会など、心の病について知る、理解する機会を設けることが、行政の取り組みとして必要だと思いますが、見解をお聞かせ下さい。

 

(4)
次に、子どもたちへの取り組みはどうなっているか、という視点から質問致します。
不登校から長期の引きこもりとなり、そのまま高齢化している、ということが社会問題となっています。そして、長期化した末に、何らかの問題行動に出たり、自殺してしまう、というケースもあります。それは、本人にとっても、家族にとっても、とても不幸なことです。

不登校は、長期化させないことが重要です。もし、その原因が、心の病に結びついているものであれば、早い時期に医療につなげるべきでしょう。

特別支援教育の取り組みが、この4月から始まりますが、その中で規定されている、LD(学習障がい)、ADHD(注意欠陥多動性障がい)、高機能自閉症の内、ADHDについては、子ども向けの薬が開発され、適切な処方をすれば、すぐれた能力を発揮することに結びつく可能性が大きいそうです。

やはり、メンタルな相談という意味でも、薬の処方という意味でも、医療につなげることが重要でしょう。それは決して、薬漬けにする、ということではありません。あくまでも、適切な処方を施す、という意味です。

また、あまり絵s件一般には知られていないのですが、発達障がいとうつ病には深いつながりがある、という研究報告があるそうです。

こうしたことも含め、これからは、教職員の研修、保護者等を対象とした講演会やシンポジウムなど、学校においても、理解啓発の機会をつくることが重要だと考えます。子どもたちの心の健康について、現場ではどのような対応をされているのか、また、今後、どのような対策をとるつもりでいるのか、教育委員会としてのお考えを伺います。

 

(5)
これまで、うつ病を中心として、様々述べてまいりましたが、心の健康、心の病、ということについて、私たちはもっと理解を深め、心のバリアフリーを確立しなければならないと思います。

例えば、心の病を理解するひとつの方法として、統合失調症疑似体験「バーチャル・ハルシネーション」というものがあります。

これは、ある民間会社が、億単位の経費をかけて専門医と共に開発したものですが、統合失調症の症状としてあわられる幻聴を再現したもの、幻聴がリアルに体験できる、という装置です。精神医療従事者や家族から当事者の苦しみを理解するツールとして評価されています。

私も、先日、この会社を訪れ、「バーチャルハルシネーション」を体験させていただきました。統合失調症の人が、幻聴でどれだけ苦しんでいるか、ほんの一部かもしれませんが、体験したことにより、その状況が理解できたように思います。

バーチャルハルシネーションを開発したこの会社は、全国の医療機関や家族会を対象として無料で貸し出しを行ない、心の病への理解を進めるために、真剣に取り組んでいます。

当事者の家族はもとより、子どもに関わる人、保健士、保育士、養護教諭、幼稚園の先生、小中学校の先生、スクールカウンセラーや児童館職員、福祉関係の方々には、ぜひとも体験していただきたい。区がその機会をつくってほしいと思います。

以上、区の見解を伺いまして、壇上からの質問を終わります。

 


(自席からの再質問)
自殺予防はこれからがスタートだと思いますので、ぜひ真剣に取り組んでください。それから、教育委員会では、自殺予防の必要性についてどのように考えているか、一点だけ、お答え下さい。