海外視察報告書  by 田中優子

 


派遣議員団(10名)でまとめて作成する「海外視察報告書」の中の、田中優子担当の部分(少子化対策教育)をこちらに掲載いたします。

※本当は、もっとたくさん書いたのですが、ひとつの項目につき原稿用紙3枚まで、ということだったので、半分ぐらい削除してまとめました。 

 

                               
2004年10月26日(火)10:00−12:00
少子化対策についての勉強会  
講師:Ms.アン・ヴィヴィ・ウェッセル

 

まず、デンマーク全般の生活実態や政治状況などについてのお話を聞くことができて、大変興味深く、有意義でした。

私が、一番感心したのは、「政治が信頼されている」とうことです。デンマークの所得税は60%近いにもかかわらず、国民は税が高くても満足している、というのです。それは、税の使われ方が国民にきちんと知らされているから(情報公開が進んでいるから)ということでした。

「デンマークで出生率が上がったのは、女性の社会進出を進めようとした結果である」というのは、日本のテレビ番組でも、新聞報道等でも、あちこちで紹介されていることですが、デンマークには「専業主婦」はほとんどいない。75%の女性が就業していて、家庭でも男女平等。家事、育児の分担は男性も女性と同じようにやっています。

この男女平等意識も、戦後当然となった男女平等教育の成果ということですが、女性がどんどん社会に出て行ったのと同時に、「育児支援法」を整備し、共稼ぎが可能になった、ということが大きいそうです。そして、1970年代から、男性も家事をやるのが当たり前となり、現在では完全に「性別役割分業」というものは、意識も実態もなくなっています。

「少子化対策」は、やはり、女性が働きやすい環境を整備すること(具体的には@保育所の整備と、A男性の家事・育児参加)で解決に向かっていく、ということがよくわかりました。女性が働きながらも子どもを生み育てることができる。女性だけに子育てや家事の負担がかかる、ということのない社会。それが、何よりも少子化を改善することにつながるのだ、ということです。

日本では、「3歳児神話」というものが未だ根強く、「3歳までは母親が専従で子育てをすべき(外で働くべきではない)」という価値観があって、女性の社会進出が遅れ、だから子どもを生みにくくなる、という状況があります。

「デンマークにはそういう考え方や意識はないのか?」と質問したところ、「子どもはできるだけ早く他の子どもたちと一緒に、社会の中で育った方がいい、と考えます」ということでした。

日本で言われているところの「3歳児神話」とは一体何なのでしょう?高度経済成長期に、「企業戦士+専業主婦」というパターンが一番効率的、ということから流された話だったのだろうと思いますが、いずれにしても、「神話」であり、それに縛られて、その結果、子どもを生み育てにくい社会(そして少子化がどんどん進むということ)では、大変弊害のある神話で、困ったものだ!と思います。

賃金も、働く機会も、家庭での家事分担も、すべて男女平等に、性別役割分担という意識も全くなく行なわれているデンマーク。少子化対策には、そういう男女平等社会を築くこと、が何よりも近道だ!ということが確認できた視察でした。

 

 


2004年10月27日(水) 10:00−11:40 
教育についての勉強会   
講師:教育&青年担当市長 Mr.ペール・ブレイゲンガード

 

視察二日目の午前は、「教育について」の勉強会でした。
デンマークでは、世田谷区で言うところの「教育長」が、「教育担当市長」という位置づけになっています。この教育担当市長自らが講義をして下さいました。

ブレイゲンガード市長は、私たちが少しでも理解できるように、と、英語で説明をしてくださいました。(デンマーク語では全くわかりませんから、その配慮はとてもありがたかったです。何ヶ国語も話せるっていいなぁ、と思いました)

デンマークでは、義務教育の9年間はクラス替えがなく、ずっと同じメンバーだそうです。全体の76%が公立で、24%が私立。私立学校の場合は85%が市の助成、15%が保護者負担。公立の場合は自己負担ゼロ。

子どもたちの30%が(トルコやパキスタンなど)デンマーク語を母国語としていないので、移民の子どもたちのケア、ということにも重点を置いています。

不登校児はいるけれどもそれほど多くはない、ということ。イジメに関しては、解決方法がいくつも用意されていて、ロールプレイやディスカッションなどでルール作りをしたりしながら、特に予防に力を入れている、ということでした。基本は「先生が解決する」のではなくて、「子どもたちに解決させる。子どもたちに責任を持たせる」ことだそうです。

学校選択性については、空きがあればOKということ。ちなみに、一クラスの人数は28人まで。平均21人程度、ということです。

教員の質の確保のために、年に4、5日、放課後に研修を行なっていて、教育委員会が持っている5つのプログラムを使って校内研修が行なわれているそうです。

「地域運営学校」についても伺いました。
デンマークでは先駆的に「学校運営員会」を設置し、「学校の予算をどのように使うか」の原則を決める“地域運営学校”の形態がすでにあります。

「学校運営委員会」のメンバーは、生徒2人、教師2人、保護者の代表が5人の計9人。4年毎に選挙で選ばれます。
選択授業を何にするか?時間割は?先生の数は?学校の規則は?など、カリキュラムや教員採用についても話し合いを行なっていて、教員を雇うのも、この運営委員会だそうです(校長はアドバイスを行なう)。

世田谷区でも来年度からモデル校を導入しようとしている「地域運営学校」ですが、「教員の人事にも関係するので児童・生徒の代表はメンバーに入れない」、というのが文部科学省と世田谷区教育委員会の見解です。デンマークの地域運営学校は、もっと進んだ形で運営されていることに驚きました。

こうした先駆的な事例をもっと研究し、良いところをどんどん取り入れて、世田谷区の教育環境をさらによいものにしていきたい、その努力を教育委員会にも求めたい、と思いました。

 

合計10日間の「姉妹都市交流事業参加」と「近隣諸国の視察」でしたが、最後まで、区議団10名全員が、病気も怪我もなく無事に海外での公務を果たし、プログラムのすべてを終了した上で帰国できてよかったです。この貴重な経験を今後の区政にいかしていきたいと思います。