(7/12)性別役割分担、若い女性低い支持――家庭運営は夫婦で、出生率の低下にも関係

 日本は男は仕事、女は家庭の守り手という性別役割分担意識が強い国だ。合計特殊出生率(女性が一生に生む子どもの数)が1.3を切るに至った背景には、それが強いがゆえの負担の重さを女性が嫌ったからという指摘もあるくらい。先ごろ内閣府が公表した03年度男女共同参画白書などをもとに、固定的な性別役割分担が内蔵する問題点を明らかにする。

 男性が、女性が仕事を持つことをどう考えるのかは経済状況に左右されるようだ。白書によると92年当時、男性の多くは「女性は子どもができたら仕事を辞め、大きくなったら再び仕事を持つ方がよい」(39.2%)と考えていた。「子どもができてもずっと仕事を続ける」ことへの支持率も19.8%と第二位につけてはいたものの、両者間には約20ポイントもの開きがあった。
 10年後の02年はどうか。トップに躍り出たのは長く二番手だった仕事継続型(37.2%)で、20年来トップの座に君臨してきた再就職型は2位(31.8%)に転落した。なぜ男性は女性が働くことに理解を示すようになったのか。
 「賃金の伸び悩みやリストラの増加などの厳しい社会経済情勢がかなり影響している」というのが白書の分析。要するに男性一人の働きで家計を維持するのは無理という危機感が、女性が働き続けることへの支持者を増やしているらしい。
 女性はどうかと言えば仕事継続型(38.0%)は相変わらず二番手で、再就職型(40.6%)が依然1位をキープ。なぜ男女間でこのような格差が生じたのか。白書の趣旨を要約すればこうだ。「多くの家庭では妻が家事・育児を行っている。夫が望むように子どもができてからも働き続けたとしても、この状況は変わらない。負担が大変なので、それなら再就職型でと考えてしまうのだろう」

※  ※  ※


 こんなデータもある。家庭生活で男女の地位は平等かという問いに、男性の半数近く(47.8%)は「平等」と答えている(女性は34.3%)。平等と答えた家庭の家事はどうなっているのか。「掃除」は妻という家庭は78.6%(男女計。以下同じ)。「食事の後片付け、食器洗い」(75.7%)もしかり。「洗濯」(86.6%)、「食事の支度」(84.9%)に至っては、8割台の家庭が妻任せだ。
 「家計が厳しいから働いて。家事・育児もこなしながら」では、男性はあまりに虫がよすぎる。女性たちは最近の男性のそんな浅薄な平等論を見透かし、結婚後の負担増を敬遠して非婚・晩婚といった選択に走る。
 なぜいつまでたっても家事・育児が妻任せなのかといえば、それが女の役目という幼いころからの根強い刷り込みがあるからだろう。男女共同参画社会基本法はそうした固定的な性別役割分担を否定しているが、最近はバックラッシュ(揺り戻し)の高まりで、女性と男性は社会的役割が違うという主張が広まりつつある。いわゆる男女特性論がそれ。男女共同参画社会基本法の理念とは全く相反する考え方だ。


※  ※  ※


 先ごろ東京・荒川区は区長の諮問機関・男女共同参画社会懇談会の検討結果報告を受けて作成した男女共同参画条例案前文に、次の一文を入れた。「男女が互いの特性を認めつつ人権を尊重し……個性と能力を発揮(する)」。さらに「男女の区別を差別と見誤って否定の対象とすることなく……」という「逸脱の防止と是正」に関する条文も盛り込んだ。全国の条例では例を見ないものである。
 条例案づくりのもとになった検討結果報告が出た時点で、43の全国女性団体で組織する国際婦人年連絡会は次のような抗議声明を出している。「『男女の特性』について、生物学的な性差(生まれながらに持っている機能の違い)と社会的、文化的、歴史的に形成された性差(ジェンダー)を混同し、……男女の固定的役割分担の温存・維持・助長を意図している」「『男女の特性』の強調は女性の活力を封じ込め……時代錯誤そのもの」と。
 区民の一部からも反対が出たことなどもあって、結局荒川区は区議会に提出した同条例案を取り下げた。男女共同参画の理念に反した内容である以上、取り下げは当然だろう。


※  ※  ※


 男女共同参画白書に戻れば「夫は外で働き、妻は家を守る」という固定的役割分担の支持率は、72年当時は男女とも8割を超した。それが02年は男性51.3%、女性43.3%と低下した。年代的に見ると20―40代女性の支持率が3割台に落ち込んでいる。男性も2、30代は支持率が4割台だ。
 若い世代、特に女性の支持率が急速に低下していることと、低出生率は無縁ではあるまい。彼女らが性別役割分担を支持しないということは、言葉を変えれば基本法第六条が言う「男女の相互の協力」による家庭運営を望んでいるということ。それが不可能な現実に直面した時、生み控えなどの選択に走る。
 専業主婦の方が子どもを生んでいるようにも見えるが、調査結果に見る限り共働き主婦より少ない。結婚10―14年の専業主婦の「平均出生子ども数」は2.11人に対し、共働き主婦のそれは2.19人だ(国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」)。
 仕事も家庭もという生き方に男女特性論などの名の下、制約が加われば少子化は更に深刻化する恐れがある。(編集委員 鹿嶋敬)

少子化、韓国はさらに深刻

 お隣韓国の合計特殊出生率は01年1.30、02年1.17と日本以上に深刻だ。その理由の一つとして柳赫秀横浜国立大学教授は80年代後半以降、急速に進んだ価値観の変化を挙げる。
 特に伝統的な男女の役割分担意識が大きく変化し、韓国女性部が実施した調査でも「結婚の予定は未定」とする男女のうち、男性がその理由として挙げたのは「経済的基盤が未整備」、女性は「必ず結婚しなければならないとは思わない」だったという。といって若い女性たちは結婚、家族を否定しているわけではなく、未婚女性の6割弱が理想の子どもの数を2人と答えている。
 柳教授はこのような急激な価値観の変化、さらには90年代に入ってからの共働きの一般化といったライフスタイルの変化を補完する社会的なインフラが未整備になっている点が少子化が進む一因だと指摘する。
 日本も同様だ。仕事と家庭の両立ができる体制の確立こそ急務。女性を家につなぎ留めるのが少子化対策につながるなどという考えがあったとしたら、お門違いである。
[日本経済新聞]